しばた司法書士・行政書士事務所|柴田久美子

離婚(公正証書・協議書作成)

離婚の方法・成立について

1.離婚の方法

離婚には、(1)協議離婚、(2)調停離婚、(3)審判離婚、(4)判決による離婚、(5)裁判上の和解による離婚、(6)請求認諾による離婚があります。ここでは、(1)~(4)について説明します。

(1) 協議離婚

夫婦間で婚姻解消の合意があり、市区町村役場に離婚の届出をすることにより効力を生じます。離婚の際に、養育費や財産分与などを取り決めていた場合でも、口約束だけで義務が履行されないということも起こりえますので、後日のトラブルを防止するために、当事者間で離婚協議書を作成したり、公証役場で離婚公正証書を作成することをおすすめします。

(2) 調停離婚

離婚について、夫婦で話し合いがまとまらない場合や話し合いができない場合、あるいは双方に離婚意思はあるが、親権者の指定や財産分与等につき協議が整わない場合に、夫婦の一方または双方が家庭裁判所に調停の申立てをし、調停手続きで離婚が成立することをいいます。
当事者間で離婚について協議が整わない場合には、一方の配偶者は他方配偶者に対して直ちに離婚訴訟を提起することはできず、まずは家庭裁判所の調停手続きを利用することになります。調停手続きにおいては、離婚だけでなく、未成年の子の親権者を父・母どちらにするか、面会交流の時期・方法や養育費、財産分与、慰謝料、年金分割の割合をどうするかといったその他財産に関する問題も一緒に話し合うことができます。

(3) 審判離婚

離婚する旨の「調停に代わる審判」の確定によって離婚が成立します。「調停に代わる審判」は、当事者間で合意に至っているものの一方または双方の当事者が期日に出席しない場合に活用されます。また当事者双方で細かな条件で一致しない部分はあるものの、夫婦の一切の事情を考慮したうえで、裁判官が、調停委員の意見を聞き、相当と考える内容で審判により離婚を成立させることがあります。審判の内容に納得できない当事者は、審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができます。

(4) 判決による離婚

離婚する旨の判決の確定によって離婚が成立します。裁判上の離婚は、①配偶者に不貞な行為があったとき、②配偶者から悪意で遺棄されたとき、③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき、④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき、⑤その他婚姻を継続しがたい重大な理由があるとき、の①~⑤の離婚原因のいずれかに該当する事由がある場合に認められます。

2.離婚の成立

(1) 協議離婚

市区町村役場に離婚の届出をすることによって協議離婚が成立します。
※離婚調停においても、協議離婚の届出をすることに合意することで離婚成立となる場合もあります。
戸籍には、身分事項の離婚の欄に【離婚日】年月日【配偶者】〇〇〇〇(離婚する相手)が記載されます。
なお、離婚後あたらしく戸籍を作る方は、【新戸籍】が記載されます。

(2) 調停離婚

離婚調停において離婚することに合意した場合は、調停成立により離婚となります。
原則として成立から10日以内に、離婚調停の申立人が調停調書の謄本(または抄本)を添えて市区町村役場に届出をすることになります。
10日を経過しても申立人が市区町村役場に届出をしない場合や、調停成立時に「相手方の申出により」離婚すると合意している場合は、離婚調停を申し立てられた方(相手方)が届出をすることができます。
戸籍には、身分事項の離婚の欄に【離婚の調停成立日】年月日、【配偶者氏名】〇〇〇〇(離婚する相手)、【届出日】年月日、【届出人】が記載されます。
なお、離婚後あたらしく戸籍を作る方は、【新戸籍】が記載されます。

(3) 審判離婚

裁判所の審判が確定(当事者双方が審判書の送達を受けた日の翌日から、異議申立てがなされることなく2週間の経過)することにより離婚となります。
原則として審判確定の日から10日以内に、離婚調停の申立人が審判書謄本(または抄本)、確定証明書を添えて市区町村役場に届出をすることになります。
10日を経過しても申立人が市区町村役場に届出をしない場合は、離婚調停を申し立てられた方(相手方)が届出をすることができます。
戸籍には、身分事項の離婚の欄に【離婚の審判の確定日】年月日、【配偶者氏名】〇〇〇〇(離婚する相手)、【届出日】年月日、【届出人】が記入されます。
なお、離婚後あたらしく戸籍を作る方は、【新戸籍】が記載されます。

(4) 裁判離婚

裁判所の判決が確定(当事者双方が判決書の送達を受けた日の翌日から、異議申立てがなされることなく2週間の経過)することにより離婚となります。
原則として判決確定の日から10日以内に、訴えの提起者が判決書謄本(または抄本)、確定証明書を添えて市区町村役場に届出をすることになります。
10日を経過しても訴えの提起者が市区町村役場に届出をしない場合は、訴えられた方が届出をすることができます。
戸籍には、身分事項の離婚の欄に【離婚の裁判確定日】年月日、【配偶者氏名】〇〇〇〇(離婚する相手)、【届出日】年月日、【届出人】が記入されます。
なお、離婚後あたらしく戸籍を作る方は、【新戸籍】が記載されます。

※ちなみに、裁判離婚の中で当事者双方が和解に至り、訴訟上の和解による離婚となった場合は、和解が成立した日から10日以内に、和解調書謄本(または抄本)を添えて市区町村役場に離婚の届出をする必要があります。
戸籍には、身分事項の欄に【離婚の和解成立日】年月日、【配偶者氏名】〇〇〇〇(離婚する相手)、【届出日】年月日、【届出人】が記入されます。なお、離婚後あたらしく戸籍を作る方は、【新戸籍】が記載されます。

離婚の際に取り決めること

1.未成年の子がいる場合の親権者

離婚するときは、必ず父母のどちらかを「親権者」として決めなければならないとされていますので、親権者を決めずに離婚届を提出しても届出は受理されません。
「親権」とは、子どもの利益のために、監護・教育(進学、医療など)を行ったり、子の財産を管理したりする権限であり義務であるといわれています。
「監護権」とは、子の養育、身上監護に必要な行為をすることで、養育及び教育、居所指定、職業許可、子が不法に拘束された場合の子の引渡請求をすることを内容とします。
「親権」を行使する場合は、当然そのうちに子の「監護」を行うことが含まれますが、事情により「親権」と「監護権」を分離させた場合には、「監護権」には財産の管理や財産上の法律行為について子を代表する等、一定の権能については含まれません。

※親権者を変更する場合は、父母の協議のみでは行うことができず、家庭裁判所の調停または審判で決めることになります。
また、審判をする場合には、子が15歳以上のときは、家庭裁判所は子の陳述を聴かなければならないとされています。

2.面会交流の時期・方法等

「面会交流」とは、離婚または婚姻中の別居により、子と同居しなくなった親が、子と定期的に面会し、交流することをいいます。
面会交流を定めるにあたっては、子の利益を最も優先して考慮しなければならないとされています。
面会交流の方法は、子の年齢や性別、生活環境、当事者双方の親の事情によりそれぞれ異なりますが、取り決めは主に次のような内容となります。

直接交流の場合
  • 面会交流の頻度(年〇回、月〇回など)
  • 子の送迎や費用の負担
  • 学校行事(授業参観、運動会、発表会等)への参加
  • 宿泊を伴う面会交流、期間(「夏休み期間中」、「〇泊まで」など)
  • 親権者の同伴の有無
間接交流の場合
  • 手紙、メール、電話、写真、スマホによる動画の送信、誕生日カードやプレゼントの送付の実施、その頻度
  • オンライン面会(パソコンやタブレット、スマートフォンなどの電子端末で、ビデオ通話サービスを利用して、インターネット経由で面会を行う方法)の実施、その頻度
その他の検討事項
  • 子の成長、生活状況の変化に伴い、面会交流の方法等を変更する必要性がある場合、将来一定の時期に父母が協議する旨の約束
  • 進学等により養育費に変更が生じる場合(就職、専門学校、短大、4年制大学等)の、子の進路についての連絡

3.養育費

「養育費」とは、未成熟子(未成年の子のみならず、既に成年に達している子であっても、経済的にまだ自立してない子は「未成熟子」とされます。)が、親と同程度の生活水準を保持して生活するのに必要な費用のことをいい、食費、医療費、住居費、教育費、医療費等が含まれます。
養育費は、親権者か否かに関係なく、父母双方がその収入に応じて、子が親と同程度の生活水準を維持するのに必要な費用を分担するものとされています。

(1) 養育費の額についての取り決め

養育費の額は父母の協議によって定めるのが原則ですが、双方の主張の隔たりが大きく、合意が難しい場合は、標準的な養育費を簡易迅速に算出する目的で作成された、裁判所が公表している「算定表」を利用する方法もあります。

  • 養育費の算定の考え方・・・「養育費を支払う側【義務者】」、「養育費を受け取る側【権利者】」の双方の実際の収入金額を基礎として、子が【義務者】と同居していると仮定すれば、子のために費消されていたはずの生活費がいくらであるのかを計算し、これを【義務者】【権利者】の収入割合で按分し、【義務者】が支払うべき養育費の額を定めるというものです。
  • 算定表の使い方・・・算定表の横軸には【権利者】の総収入(年収)、縦軸には【義務者】の総収入(年収)がそれぞれ記載されています。子の人数と年齢に従って表を選択し、その表の【権利者】・【義務者】の収入欄を給与所得者か自営業者の区別(左下角の部分)に従って選び出します。そして選んだ【権利者】の収入欄からまっすぐ上に伸ばし、【義務者】の収入欄からまっすぐ右に伸ばして、両者が交差するところの額が標準的な養育費の額となっています。
  • 「収入」について・・・
    「給与所得者」の場合は、源泉徴収票左上記載の「支払い金額」、「自営業者」の場合は、確定申告書の「課税される所得金額」(ただし、現実に支出されていない費用である「青色申告控除」や、支払いがされていない「専従者給与」などは「課税される所得金額」に加算します。)の金額となります。
  • 「児童手当」、「児童扶養手当」について・・・
    養育費算定においては考慮すべきではなく、収入に含まれません。
(2) 養育費の支払いについて

毎月●日限り、月額金●円、振込先口座
※養育費は子供のための生活費であり、一括払いは法律上の問題点も多いため、原則として毎月の支払いとなります。

(3) 養育費支払いの終期について(いつまで支払うか)

 子が満20歳に達する日(またはその日の属する月)まで(一般的)
 ※子の進学に応じて養育費支払いを延長する場合
 →①の時点において、子が2年生の大学等に進学し在籍している場合は、20歳に達した後の最初に到来する3月まで
 →①の時点において、子が4年制の大学等に進学し在籍している場合は、22歳に達した後の最初に到来する3月まで

(4) その他の検討事項
  • やむを得ず休学または留年した場合の支払い延長の有無
  • 大学院等へのさらなる就学希望の場合の支払い延長の有無
  • 学費、医療費等の特別の費用を必要とする場合の協議について

4.財産分与

「財産分与」とは、離婚により夫婦が所有する財産を分配する手続きのことです。

(1) 財産分与の性質

財産分与には、主に①清算的財産分与②扶養的財産分与③慰謝料的財産分与の3つの性質があります。

清算的財産分与・・・夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を離婚に際して分与するものです。
清算割合は、原則として2分の1になります。

扶養的財産分与・・・一方の配偶者が離婚後の生活に困窮すると予想される場合に、離婚後の相手の生計の維持を目的として分与するものです。有職者、自活能力のある者からの請求は認められない場合が多いようです。

慰謝料的財産分与・・・離婚の原因に起因する慰謝料としての要素を財産分与に含めて財産を分与するものです。財産分与に慰謝料をまとめて取り決める(請求する)ことも、あるいは財産分与と慰謝料を別々に取り決める(請求する)こともできます。

(2) 財産分与について考え方、手順
① 財産分与の対象となる財産を確定する「基準日」を定めます。

基準日・・・当事者の合意によりますが、原則として婚姻後「別居時」、別居しないまま離婚した場合は「離婚時」となります。

② 財産分与の対象となる財産を確定します。

不動産や預貯金など、その名義が夫婦のいずれか片方の名義となっている場合や、子供名義の預金であっても、それが婚姻期間中に夫婦で協力して取得したものと評価される場合には、財産分与の対象となります。(例:預貯金、生命保険・学資保険、株式等、退職金、不動産、自動車、住宅ローンなどの債務)
※ 夫婦の一方が婚姻前から所有していた財産や、婚姻中に相続、贈与などにより取得した財産は、その者の特有財産として、清算の対象になりません。

③ 財産分与の対象となる財産を評価します。
    • 預貯金、保険の解約返戻金、退職金等は、基準日の残高が評価額となります。
    • 不動産、車や株式(特に非上場株式)は、評価方法に定めはなく、固定資産評価額や査定額など、客観的かつ合理的と認められる価格が基準とされます。
    • 株式(上場株式)、投資信託、外貨預金などは、直近の評価額が基準とされます。
④ 財産分与について、具体的な内容(分与額、分与方法、名義変更等)を取り決めます。
    • 金銭の場合・・・支払金額、期限、方法(振込など)
    • 不動産の場合・・・登記手続き、期限、登記手続費用の負担など
    • 動産(自動車)の場合・・・引渡し、移転登録手続き、期限、登録手続費用の負担など
    • 保険・・・契約名義をそのままに継続するケースや、契約者名義を変更して契約を継続するケース、解約して返戻金を分配するケースが考えられます。
    • 退職金・・・仮に自己都合した場合の退職金を見積もり、婚姻期間(同居期間)と勤務期間をふまえて金額を算出します。
    • 住宅ローン・・・

A:一方の配偶者が住宅ローンの債務者となっている場合に、そのまま一方が居住し、継続して支払うケース
 →他方の配偶者が連帯保証人となっている場合に、連帯保証人から外すときの金融機関との交渉
B:一方の配偶者が住宅ローンの債務者となっている場合に、一方が住宅ローンを支払い続け、他方が当該不動産に居住し続けるケース
C:住宅を売却して住宅ローンの残債務に充てるケース
 →売却期限、売却希望価格、住宅ローン残債務不足の場合の残債務の支払い、住宅ローン完済により余剰がある場合の分配など。

(3) 財産分与の時効

協議離婚の場合に財産分与の取り決めがなされずに離婚に至った場合は、離婚から2年以内に裁判所に財産分与の調停を申し立てることができます。

5.慰謝料

「慰謝料」とは、一般的には、一方の配偶者の有責行為(不貞行為、暴力・虐待行為など)により婚姻が破綻するに至ったことに対する損害賠償請求であるとされています。
財産分与に慰謝料的要素を含んだ内容で解決する場合もあります。

慰謝料については当事者双方に客観的事実の認識や金額的な隔たりがある場合が多く、慰謝料の算定に関して当事者双方が合意できない場合は裁判手続きとなります。
裁判においては、慰謝料が発生する相応の事情や客観的な証拠が必要となるほか、婚姻破綻に至らしめた配偶者の有責行為の程度(不貞の期間や暴行の具体的内容など)、婚姻継続期間や婚姻期間中の夫婦の関係性、双方の年齢や職業、有責配偶者の収入等が考慮されることになります。

*離婚に伴う慰謝料の請求は、離婚成立の時から原則として3年を経過すると時効により請求することができません。

6.年金分割

「離婚時年金分割」とは、夫婦が離婚または事実婚関係を解消した場合に、厚生年金(共済組合の組合員である期間を含みます。)のうち、婚姻期間中に形成されたそれぞれの厚生年金の保険料納付記録(標準報酬)の分割を行うことができる制度です。

(1) 合意分割

平成19年4月1日以降の離婚時に適用されます。当事者の合意または裁判手続において請求すべき按分割合を定める必要があります。

  • 分割の対象となる期間・・・婚姻期間等の期間全体であり、平成19年4月1日より前の期間も含まれます。
  • 按分割合・・・按分割合の範囲内で、当事者の合意で定めることができますが、一般的には、合意分割の対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等とみるのが相当と考えられており、分割割合は特段の事情がない限り2分の1(0.5)とされます。
(2) 3号分割

平成20年4月1日以降の離婚時に適用されます。分割割合に関する当事者の合意や裁判手続きは必要なく、分割割合は常に2分の1とされます。

  • 分割の対象となる期間・・・婚姻期間等の期間のうち、平成20年4月1日以降の国民年金第3号被保険者期間中の記録に限られます。

※年金分割は、期限の特例がある場合を除き、離婚した日の翌日から起算して2年を経過すると請求できなくなります。

7.その他の取り決め

当事者の一方が住所、居所、勤務先、連絡先を変更したときは、他方に知らせる旨の取り決めをすることも可能です。

離婚公正証書・協議書の作成

離婚公正証書と協議書の違い

・離婚協議書

当事者間の合意内容を書面にした私文書です。当事者が作成する場合や、弁護士、行政書士が関与して作成する場合もあります。この場合、もし養育費等の支払いが履行されない場合に、すぐに支払義務がある者の財産に対して強制執行することができず、まずは裁判所に訴えを提起し、判決を得て強制執行することになります。

・離婚公正証書

当事者間の合意内容について公証役場の公証人が公正証書を作成します。もし養育費等の支払いが履行されない場合に、公正証書に「強制執行認諾文言」(支払する者が金銭の支払をしないときは強制執行されてもかまわないと受諾した旨の定め)があれば、裁判手続を経ることなく、支払義務がある者の財産に対して強制執行が可能となります。

離婚公正証書作成の流れ

1

離婚について当事者間で協議し、協議の内容を書面にします。

2

当事者間で協議し、作成した書面(原案)を公証役場に送ります。
(必要書類として、戸籍謄本、その他協議の内容に応じて不動産の登記事項証明書や登記情報、納税通知書等の財産資料、年金分割の場合は情報通知書等も合わせて送ります。)

3

公証人が書類の内容を確認し、文案の修正等を行います。

4

公正証書の内容について修正等を経て、当事者双方で文案の最終的な確認を行います。
公証人の手数料についても事前にお知らせのうえ、当事者双方が公証役場に訪問して公正証書を作成する日程を調整します。

5

当事者双方が公証役場に行き、公証人の面前で離婚協議公正証書の内容を確認し、署名・押印します。窓口で公正証書作成手数料を支払い、公正証書(謄本)を当事者双方がその場で受け取ることで、強制執行の際にも必要な「送達」(交付送達)が完了となります。

離婚協議書・公正証書作成後、不動産や自動車の名義変更についてもお手続き可能です。
また、話し合いがまとまらない場合や話し合いができない場合は、調停の手続きについてご案内いたします。

離婚前の別居時において生じる問題

婚姻費用の分担の問題

「婚姻費用」とは、夫婦と未成熟子(未成年の子のみならず、既に成年に達している子であっても、経済的にまだ自立してない子は「未成熟子」とされます。)を中心とする婚姻家族がその財産、収入及び社会的地位に応じて通常の共同生活を維持するために必要な一切の費用、生活費のことをいいます。
婚姻費用は、夫婦と未成熟子を中心とする婚姻家族全員が同程度の暮らしができるように、それぞれの経済力に応じて、夫婦が互いに婚姻費用を分担するものとされています。これは、夫婦が別居した場合でも同様です。
そして夫婦が別居している場合は、家族全員が同居している場合の世帯の収入(夫婦それぞれの収入の合計額)を、夫の世帯、妻の世帯に割合に応じて割り振り、収入の多い配偶者から収入の少ない配偶者に生活費を支払います。生活費は、未成熟子に加えて配偶者の扶養も含まれます。

(1) 婚姻費用の額についての取り決め

婚姻費用の額は当事者双方の協議によって定めるのが原則ですが、双方の主張の隔たりが大きく、合意が難しい場合は、標準的な婚姻費用を簡易迅速に算出する目的で作成された、裁判所が公表している「算定表」を利用する方法もあります。

  • 婚姻費用分担額の算定の考え方・・・「婚姻費用を支払う側【義務者】」、「婚姻費用を受け取る側【権利者】」の双方の実際の収入金額を基礎として、【義務者】・【権利者】及び子が同居していると仮定します。双方の基礎収入の合計額を世帯収入とみなして、その世帯収入を【権利者(+子)】の生活指数で按分し、【義務者】が【権利者】に支払うべき婚姻費用の額を定めるというものです。
  • 算定表の使い方・・・算定表の横軸には【権利者】の総収入(年収)、縦軸には【義務者】の総収入(年収)がそれぞれ記載されています。子の人数と年齢に従って表を選択し、その表の【権利者】・【義務者】の収入欄を給与所得者か自営業者の区別(左下角の部分)に従って選び出します。そして選んだ【権利者】の収入欄からまっすぐ上に伸ばし、【義務者】の収入欄からまっすぐ右に伸ばして、両者が交差するところの額が標準的な婚姻費用の額となっています。
  • 「収入について」・・・
    「給与所得者」の場合は、源泉徴収票左上記載の「支払い金額」、「自営業者」の場合は、確定申告書の「課税される所得金額」(ただし、現実に支出されていない費用である「青色申告控除」や、支払いがされていない「専従者給与」などは「課税される所得金額」に加算します。)の金額となります。
  • 「児童手当」・・・
    婚姻費用算定においては考慮すべきではなく、収入に含まれません。
(2) 婚姻費用支払いの終期について(いつまで支払うか)

分担を請求された場合は、原則として、請求時から当事者双方が同居または婚姻解消に至るまでの間に支払うことになります。